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遊牧とは家畜の飼育方法のひとつであり、モンゴルでは一般的に行われている遊牧形態である。季節に合わせて住む所を移動するため自由気ままな生活に思えるのだが、その本質は家畜を育成させるためにあり、モンゴルの草原では、最適な遊牧方法なのである。
現在、アジア・中近東・アフリカ・北欧にかけて、さまざまな形態の遊牧を見ることができる。こうした遊牧の共通利点は、飼育頭数に制限がある「囲いによる遊牧」と違い、個人の遊牧能力に合わせて家畜頭数を増やすことができ、過遊牧になる心配がないということである。

モンゴルの家畜と遊牧

モンゴルにおける遊牧民は、おもに牛・馬・羊・山羊・ラクダの5家畜を扱い、各家庭でそれぞれ主体とする家畜を決めている。モンゴル人の主食ともいうべき羊肉は需要が多く、全家畜頭数の58%も占めている。遊牧は男性の仕事で、女性は乳しぼりや家事に専念している。朝食のスーテイ・ツァイ(乳茶)を済ませると、男性は馬に乗り家畜を追って遊牧に出かけて行く。
家畜を育成させるための基本は、良質の草をたくさん与え、適度な運動で健全な体形を作ることである。遊牧民は家畜を財産とし、大切に扱っている。そして、肉や毛などを産物としている。遊牧民の1日の始まりは早く、早朝から家畜の世話をする。
その日の天候や風向きを考えて遊牧に出かけ、よい草が生えている場所を選び、日没前に家畜とともに家に戻ってくる。

遊牧の1年

遊牧の形態を知るには、やはり1年を通じて体験しなければならないだろう。
遊牧民が移動して暮らす営地をノタクと呼び、それぞれの季節を考慮してノタクを決めている。春は家畜の出産があるため、雪解けの早い場所を選ぶ。さらに夏営地ではオトルと呼ばれる、草を求める特別な移動を行う遊牧民もいる。秋営地は冬の準備のため家畜を肥らせる目的で草を与える。冬営地では山間部などの風を避けられる場所に移動し、家畜もこれにともない、枯れた草を食べながら厳しい冬を越さなければならない。

遊牧の昔と今

遊牧も昔と今とでは大きく変わってきている。例えば夏営地は、川の近くへ移動するため草も水も豊富であるが、冬営地は寒さを避けるため、山間部へ移動しなければならない。そのため水の確保が難しかったが、現在では井戸を採掘することでこうした問題点が解決した。またネグデル(牧畜協同組合)は干し朝から燃料用の糞まで準備するようになり、かなりの遊牧民が危機感から解放された。移動に使うラクダも、今ではトラックを使うようになった。便利になった反面、遊牧民の生活様式も変わり始め、労せずして得られる草や水のおかげで、大きく移動する必要もなくなり、せいぜい40kmくらいの範囲で収まっている。しかし、遊牧民の智恵は今でも細部に生き続けている。ゲルや馬の便利さ、家畜を扱いこなす基本的なことは、何が起きても変わることはなかったのである。
例えば、羊を扱うときにサーハルトという方法を用いている。これは、羊の搾乳量を確保するためのもので、遊牧の出発時に仔羊と母羊を分け、隣の家と仔羊同士を交換する方法である。母羊が実に仔羊にしか乳を与えない習性を応用したものだ。また仔羊のいない(亡くした)母羊だけのものをハイダグと呼び、乳をよく出す羊として好まれる。
羊の遊牧は、群れの形成が容易ではないため、中に山羊を混ぜ、羊の群れを先導させる方法が用いられている。つまり、いくら省力化されても家畜に対する思いやりは、今日でも変わりがないのである。          (野沢  廷行)


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